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Blogger's Avatar  2009-9-14 19:05
 まず,今年2つめとなる学会発表のおしらせです。
■日本心理臨床学会第28回秋季大会
・題名:授業妨害を起こすアスペルガー傾向の男児とのプレイセラピー
    −内的イメージの世界に参入することで敗者イメージが変容した過程
・日時:2009年9月21日(月)15:15〜16:45
・備考:参加資格は学会員のみとなります。
 今回は,昨年の学会発表の中心テーマであった,発達障害,特にアスペルガー傾向をもつ児童へのプレイセラピーの有効性という点を引き継いでいます。昨年発表した事例では,内的イメージを豊かに表現してくれたことで,プレイセラピーもThが器となることで自然に展開されていました。今回は,内的イメージが勝負の中の「敗者」に投影されており,そのままプレイとして勝者−敗者という形式的(意識的)な軸で捉えてしまうと見過ごしてしまいやすいことが特徴の事例です。アスペルガー傾向のプレイセラピーの場合,象徴機能が未熟なために事物を対象とした具体的な形で表れやすく,通常より無意識に近い深いレベルでClの内的世界に参入する必要が出てきます。今回は,その過程を取り上げました。
 Clは自分の中の「敗者」イメージを抱えることができず,自分がコントロールされる(=敗者となる)ことにパニックを起こしており,それが授業妨害につながっていたと考えられました。「敗者」イメージは,原始的防衛機制と呼ばれる投影性同一視によって他者に向けられ,その対象を攻撃するという形で表れていました。投影性同一視は,境界性人格障害などのクライエントによって用いられることが多いとされていますが,アスペルガー障害においても自他境界の未分化性などの点から,類似した形で用いられることが考えられます。
 Thは,勝負を通してClの内的世界に参入していき,投影性同一視によって向けられた「敗者」イメージを引き受けながら,そこで起こってくる内的経験に従って「勝者」イメージへと変容していきました。表面的には,勝負に負けていたThが本気を出して勝っているということになりますが,その無意識レベルでは,勝者−敗者の軸でのゲシュタルト療法的な図−地反転が起こっています。そうすると,「敗者」イメージの投影がClの側に引き戻されて,最初は混乱したものの次第に「敗者」イメージを統合して,「敗者」を引き受けながら練習してリベンジするという,適応的な形になって,主訴であった授業妨害も起こらなくなっていきました。このようなことを,発表では事例の経過を通して述べたいと思います。

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